SMILE PEOPLE

L'Atelier de NOTO

能登の生産者との強い絆が創る100年後を見据えた食文化

北陸を拠点に全国に笑顔を届けている生産者や職人の方の想いやこだわりに迫る「SMILE PEOPLE」。

  

石川県輪島市にて「地元能登の食文化の素晴らしさをお客さんに伝えること」をコンセプトにしたお店があると聞き、取材に伺いました。

  

お話を伺ったのは「L’Atelier de NOTO」(ラトリエ・ドゥ・ノト)オーナーシェフ池端隼也 さん。
池端さんは、辻調理師専門学校を卒業後に大阪の名店「カランドリエ」にて修業を積み、2006年よりフランスの星つきレストランで4年半働いた経験があるそうです。

  

今回池端さんには、能登の地でお店を開いたからこそ感じた魅力や、未来に素晴らしい食文化を繋いでいくために考えていることを語っていただきました。

ずっと止まっていた時間

フランスから帰国したあと、どのような経緯で能登に戻ってきたのでしょうか?

高校まで能登に住んでいた当時は一刻も早くこんな田舎を出たいと思っていました。その頃の自分は輪島に興味がなければ食材について調べた経験もなく、何もない場所だと思っていました。「料理がしたい」そう思って大阪やフランスに渡りましたが、帰ってきた後も能登のイメージは「何もない能登」で、その感覚は高校生の頃からずっと止まっていました。

大阪の福島で店をオープンしようと思い物件を探し出したんですけど、見つけた場所にすでに先客が入っていて、入る事ができるのが半年先だったんですね。
そこで輪島に帰って少しゆっくりしながら、経営の勉強でもしようと思いました。
すると、近所の人からケータリングを作って欲しいと依頼が来ました。自分が料理人であることはすでに周囲に知られていたんです。そのとき生まれて初めて、この地域の食材について知ろうと思い始めたんですよ。もちろん、お刺身が美味しいとかは知っていましたけど。


それまではこの地域周辺でレストランを開いたとしても、お客さんが来てくれないイメージがありました。それでも食材を探していくうちに、これまで様々な場所で料理人として働いてきた経験があったからこそ、能登の食材の素晴らしさを感じました。加えて、輪島塗や珠州焼などの器もあり、この地に食の「文化」があることに気がつきました。
頭に浮かんだのはフランスの地方にいた頃に働いていた3つ星の店です。その当時から、世界中から人が食べに来るお店だったんですよね。フランスはパリなどの都市部を除いてほとんどの地域は田舎で、日本と比べても人口は約半分、完全に農業王国です。その経験を通して、食材自体のポテンシャルで負けていない能登は勝負ができると確信しました。ありがたいことに地域の人にも応援していただき、物件も見つかったことで店を開くことになりました。

フランスと能登に共通する文化

能登とフランスの親和性はどんなところだと思いますか?

フランスにはバカンスという文化があります。清涼地で連泊してゆっくりするんです。海外からの観光客の中には「東京や大阪は行き尽くしているからこそ能登に。」という方が案外多いんですよ。

能登の食材と、フランス料理の相性はいいと思いますか? 

基本的にフランスの技法で料理はできます。もちろん最初の方はきっちりとフランス料理の技法を使って料理を作っていたのですが、その考えが今は少しずつ変わってきて、あくまで食材にスポットを当てて料理を作るようになりました。それゆえに料理が和っぽいと言われることもあるのですが、私はフランス料理になっていると思っています(笑)

食文化を100年先の未来へ

NOTOFUE(ノトフィー)の活動(※1)には、どのような想いが込められているのでしょうか?

僕には「”能登の食文化を取り巻くこの環境”ができる限り続いて欲しい、そのために何かしたい。」という想いがあったんです。料理人として能登の食材やそこの関わる生産者などの「資源」がないと料理をする意味がないと思っていましたから。
お店自体も、良い環境自体も、継続的に続いていくような取り組みがしたかったんです。
そのような活動を通して、料理人が生産者の価値を押し上げる必要があると思っています。

※1)能登の豊かな里山・里海の環境、資源を後世に繋げるために、食に関わる料理人を中心として発足した団体。https://notofue.jp

繋がったからこそ分かった料理の本質

能登の数多くある食材をどのように知りましたか?

魅力的な食材はいろんな人から教えてもらいました。特に生産者同士は繋がっているため、お世話になった生産者から他の生産者を紹介してもらっていました。中には自慢の食材を自ら売りに来ることもあります。

能登でお店を開くにあたって、大切にしていることはありますか?

SNSが出始めていたということもあり、SNSの重要性は感じていました。しかし、根本的な違いは、生産者の顔が見える事が大事だと言われているこの時代において、料理は漁師さんが魚を獲るところから、あるいは野菜を採るところから始まっているという感覚ですね。業者を通して食材を仕入れているお店にはなかなか出来ないことだと思っています。僕たちは魚であれば誰が、どこで獲って、どうやって締めたかなど全部わかるんです。それらを踏まえ「この食材は何日間寝かせました。」と全部説明できます。生産者とのコミュニケーションから僕らの料理は始まっているんですよね。だからこそ、唯一無二の料理が作れるようになるのではないかと思っています。

机の上に皿が乗るまでのストーリーに価値を感じた

生産者の価値を料理人側から高めるのは新しい取り組みですよね。

フランスでは料理人にだけではなく、生産者にも賞が与えられる仕組みになっています。
私たちが野菜を買っている理由は、綺麗で美味しいことだけにフォーカスするのではなく、手間暇をかけたからこそできあがる食材がいくつもあると知っているからです。それらにきちんと焦点が当たるように業界の価値基準を変えたいと思っています。

コロナでお客さんの食に対する考え方がどのように変わりましたか?

コロナで人と会う機会がなくなり、一回の食事の大切さに気がついたのだと思います。顔を見合わせて会話をしながらみんなで食事することがいかに大事かわかったんだと思います。そういった背景によって食事に対する価値が上がったんですよね。

ミートソースに込められたメッセージ

新しくミートソースを作られたそうですね、どういった経緯だったのでしょうか?

実はレストランでジャージー牛を飼っています。あまり知りたくないと思いますが、ジャージー牛のオスは乳が出ないので処理されるんですよね。生まれてきた命を美味しくすることが僕らの使命だと思っているので、その牛を買い取り、牧場で育て、我々が食べる賄いとしてレストランで使用していました。コロナ禍になりテイクアウトを始めたことがきっかけになり、そのお肉をお客さんに出したところ、食べていただいた方に好評で反響がありました。そういった背景の牛を美味しく料理することが命の大切さを伝えるきっかけになると思い、商品化することにしました。
正直、ジャージー牛を飼っている牧場の経営は苦しいそうなんですが、そこの牧場主さんは本当にジャージー牛が大好きで、乳の味にもこだわっています。そんな想いは大切にしていきたい。だからこそ、これからも一緒になって素晴らしい牛を育てていける環境を作っていけたらと思っています。

ミートソースにした理由はなんでしょうか?

硬い部位だったので美味しく食べられるようにミンチにするのが良いと思いました。肉の味がしっかりしていたのでハンバーグなども試しましたが、骨やスジから出汁取ることで一頭丸々使い切ることが出来ると考え、ミートソースが最も適していると考えました。食材を無駄なく全部使う事ができるし、美味しく召し上がっていただけると思いました。

商品を通して消費者の方に伝えたいことはありますか?

人は自分が直接関わっていないことに対して、知らず知らずのうちに見て見ぬフリをしている部分って必ずあると思うんですよね。最近はSDGsが叫ばれています。今回ジャージー牛の雄牛をありがたく活用することで、普段捨ててしまうところでも上手く料理すればすごく美味しくなるということが伝わったら良いなと思います。

この先、池端さんが力を入れていきたいことは何ですか?

お店に来てくれるお客さんに全力で楽しんでもらえるようにしたいです。加えて、何か料理人として、人としてできることをやっていきたいと思っています。

今回の取材において、池端さんには入店したそばからとてもフランクに対応していただきました。インタービューを通して感じた池端さんの凄さは、「いま」に囚われず、「未来」の能登を、多くの人たちを巻き込んで食文化として昇華させることを見据えているということです。

取材後にインタビューでも伺ったミートソースをいただきました。ミンチになったお肉の味に、骨やスジから煮出した出汁が加わり、牛の旨味を口いっぱいに感じられる満足感のあるミートソースでした。今後も池端さんの活動に注目していきたいと思います。

L’Atelier de NOTO

石川県輪島市にて、地元能登の素晴らしさをお客さんに伝えることをコンセプトにしたお店。2020年にレストランガイド『ゴ・エ・ミヨ2020』に選出。2021年には『ミシュランガイド』1つ星を獲得。 NOTOteMAで「能登ジャージー牛のミートソース」を数量限定で予約受付中。(6月上旬発送予定)

(取材/株式会社Asian Bridge、撮影/トナミユキコ)

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