SMILE PEOPLE

金澤ブルワリー

地ビールから生まれる新しい出会い、始まる循環

北陸を拠点に全国に笑顔を届けている生産者や職人の方の想いやこだわりに迫る「SMILE PEOPLE」。

石川県金沢市で、金沢らしいビールで大人気のブルワリーがあると聞き、取材に伺いました。

小さな街中にあるビール工房。1階には外見からは考えられないほど大きな醸造タンクがあり、2階には麦芽の部屋。ここで1ヶ月~1ヶ月半をかけて金沢で愛されるビールが作られています。

お話を伺ったのは「金澤ブルワリー」代表の鈴森由佳さん。地元金沢のビール作りに携わることになった経緯や、地域の人たちとの繋がり、これから目指す金澤ブルワリーの将来について伺いました。

離れてから見つけた地元での夢

どうして金沢でビールを作りたいと思いましたか?きっかけを教えてください。

私は2012年から2014年まで、カナダのトロントに留学していました。

今まで様々な仕事を経験してきましたが、何かに興味を持ったことはなかったし、お酒、ビールが特別に好きだったわけでもありませんでした。
しかし、カナダで「地ビール」を体験したことが、初めて何かに興味を持つきっかけになりました。
地ビールは、それぞれの地域に根付いて作られていて、人々の生活に密着し、地域の特徴が感じられるものです。地域の色が反映される、その地域にしかない様々なビールの存在を知って、私も地元と強く携わることをしたいと思いました。


今は金沢市内にブルワリーは3社ありますが、起業した当時は1社もありませんでした。
金沢は全国的にみると日本酒が有名です。そんなお酒の文化が根強い場所だからこそ、地ビールの文化を作りたかったんです。
そして、何か新しいことをするなら地元で始めたいと思っていたので、金沢で仕事を始めることにしました。

2014年の帰国後、1年間醸造を学びながら、工場の準備や法人化などを同時並行で進めていき、2015年7月についに法人化をしました。

もちろん心配なことがたくさんあったのですが、予想以上に需要はあって、販売し始めて1年後には移転する動きになりました。


そのタイミングでコロナ禍に入ってしまい、飲食店やスーパーに商品を納品が難しくなりました。それに伴い、こちらの工場も一時的に止まり、売上は4割ほど減っていました。しかし、幸いにも家飲みの流行や、雑貨屋での新しい需要を受け、販売の拡大の兆しが見えてきました。特に、酵母の”働き”を止めるための火入れ処理を行う設備をタイミング良く導入できたおかげで、要冷蔵だった商品が常温保管できるようになり、大型冷蔵庫がなくて在庫を抱えづらかった雑貨屋さんにもたくさん購入していただきました。

昨年はお客様を待たせてしまう状態になるほど売上が伸びたおかげで、今年ついに第2工場を作るところまで実現できました。


地ビールで始まる新しい循環

防災ビール、リンゴのお酒などの独特な商品も発送していますね。

ビール製造の事業が始まってから、農家さんとのつながりや、大学との連携など、様々な方々との出会いがありました。そして、その方々との出会いから、想いに寄り添った商品を作りたいと思うようになりました。

消費期限を過ぎてしまった廃棄しないといけない果物を、どうすれば美味しくできるかといった議論から生まれたのが「APPLE LIQUOR」です。能登地方にて採れた規格外のブランドリンゴを使ったものになります。

また、「防災ビール」は廃棄物からエネルギーを生み出す研究をしている石川県立大学の先生と出会いから生まれました。研究時に出てくる残渣・発酵液を肥料にして育てられたホップを使って「防災ビール」を作りました。先生はゴミからエネルギーを生み出すことを実現した後「防災拠点をつくる」ということを計画されています。名付け、およびラベルも研究へのこだわりを意識しています。

防災ビールの収入の一部は、大学の研究費として寄付しています。そこでまた新しい「循環」が生まれました。


金澤ブルワリーが作る「地ビール」

金沢らしいビールには、どんなこだわりがありますか?

まずパッケージングにこだわっています。ラベルに金沢で有名な加賀水引のデザインを取り入れるなど、金沢らしさを全面に出しています。
防災ビールや金沢マラソンの限定ビールなど、地元に密着したプロジェクトでビールを作ることも1つのポイントですね。オリジナルビールも、それぞれの特徴に合わせたラベルを意識して作っています。
そして日頃から、地元の農産物を原料として使い、新しい味のビールを作ることにも励んでいます。

「6本セット」の商品を簡単に紹介してください。

まず「赤」は、アメリカンペールエール (※1)というタイプで、1番飲みやすく、食事と合わせやすいのが特徴です。味はもちろんですが、まずは香りから楽しんでいただけるビールに仕上がっています。
「赤」のビールは大麦の麦芽のみを使用していますが、「白」は小麦の麦芽も使用しており、ヴァイツェン酵母の特有のフルーティーで華やかな香りもありながら、すっきりとした味わいとなっています。

(※1)アメリカンペールエールとは・・・ペールエール自体はイギリス発祥のビアスタイルだが、その後アメリカに渡り、柑橘様のホップの香りが華やかに感じられる「アメリカン・ペールエール」が考案され、世界中に人気が広がった。

ブルワリーを営業していて、一番嬉しいと思う時はいつですか?

ビールやお酒が苦手な方々が、「こんなビールもあるんだ」「これは美味しい!」と言ってくれるときが1番嬉しいです。私がそうだったように、みなさんに地ビールの魅力を是非知って欲しいです。そして、私たちのビールがその入り口になれたらと思っています。

これからの挑戦

今後、どういうことをやっていきたいと思いますか?

今の金沢の工場では、定番商品と限定商品を作り続けています。
また、地元のお客様とオリジナル商品もたくさん作っていきたいですね。
日本の地ビールは、まだ歴史が長くありません。この文化がこれからもっと広がり、金沢の地ビールも愛され続けてほしいと思っています。

今年度、第2工場が能登島にできます。そこではビールはもちろん、清涼飲料水やビール以外のお酒など、色々な商品に挑戦してみたいと思っています。

そして、みんながものづくりを体験し、楽しめる場所にしたいです。
私の出身である石川県白山市には以前、キリンビールの工場がありました。その工場の様子やそこで体験したことが今も記憶に残っています。
新しい工場はそのイメージのように、様々な人に楽しんでもらい、新しい絆を作る場所にできたらと思います。

取材後は、Gold Bach(ゴルトバッハ)を購入し、味わわせていただきました。キレのある味わいの裏には仄かな甘みがあり、今までのラガーとはまた違うものでした。

第2工場の開所も決まり、どんどん広がっていく金澤ブルワリーのビール。金沢の地ビールから、次はどのような循環が生まれるか、今後の展開が楽しみです。

金澤ブルワリー

石川県金沢市にて、金沢だけの「地ビール」を生産・販売するお店。金沢の個性豊かなビールから、地域社会と連携したコラボ商品まで販売している。 NOTOteMAで「クラフトビール6本セット」「トノネコ麦酒&ヒメネコ麦酒」を販売中。

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(取材/株式会社Asian Bridge、撮影/トナミユキコ)

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