SMILE PEOPLE

惚れ込んだ能登赤土で育てた野菜と移住夫妻の愛情が生んだ、一から手作りの安心安全なお菓子

北陸を拠点に全国に笑顔を届けている生産者や、職人の想いやこだわりに迫る「SMILE PEOPLE」。今回お話を伺ったのは、能登へ移住して「下野農園」を営む、下野昭治さん・沙綾香さんご夫妻です。お二人は、それぞれの縁で能登に移住し出会われ、今では農業とお菓子の製造販売をされています。

震災のあと地元に一時避難されましたが、「能登が好き」「この風景と空気の中で暮らしたい」と戻って来られました。豊かな自然に囲まれた能登で、農業に真摯に向き合いながら、加工やお菓子づくりなど多方面に挑戦している下野さんご夫婦。震災の影響も残る能登の地で、様々な活動に取り組むその姿には、農業という枠を超えた深い想いと未来への希望がありました。

農業への想い

下野昭治さんが能登で農業を始めたきっかけは、手に触れた「赤土」の感触でした。能登特有の鉄分を含んだ赤土は、雨上がりには粘り気を帯び、手袋越しにもぬくもりが伝わります。その土のあたたかさに、「生きている大地」を感じたといいます。
大阪から能登に移り住んだ昭治さんは、「土の匂い」や「作物が根を張る力強さ」に心を動かされ、能登で農業をしたいと思うようになりました。


「農作物がこんなふうに育つんだ、っていう発見が、農業を通してたくさんあるんです」と話すのは妻の沙綾香さん。
彼女もまた、新しいレストランの立ち上げの仕事で単身能登を訪れました。仕事の合間に感じる自然の美しさや人の温かさに惹かれ、次第に能登の暮らしが好きになっていったといいます。プロジェクトが終わった後も能登に住み続けることを選び、昭治さんと出会いました。今は能登で子育てをしながら、その魅力を多くの人に伝える活動をしています。

現在の下野農園では、震災の影響で自宅から畑まで往復3時間かかるようになり、作っているのはさつまいもだけ。それでも昭治さんは、「この土が生み出す甘みや香りを、もっと多くの人に届けたい」と話します。

いまは、ボランティアの方たちと一緒に苗を植え、育てる日々。農業の楽しさや、土に触れる喜びを多くの人と分かち合っています。
下野さんご夫婦は、訪れる人に「少しでも農業を楽しんで帰ってもらいたい」「また能登に来たいと思ってもらえたら嬉しい」と、あたたかいおもてなしの気持ちで迎えています。
昭治さんは、農業を「大地と人、人と人をつなぐ架け橋」と考えています。里山の風景を背景に、耕し、植え、世話をし、収穫するという一連の営みを体験することで、農業の奥深さや土への敬意を感じてほしいと願っているのです。

かつて自分が初めて赤土に触れたときの感動を、訪れるすべての人に味わってほしい。
それが、下野農園が大切にしている農業への想いです。

能登への想い

震災のとき、下野さんたちが住む地域では、「自分にできることをしよう」と、食べ物や道具を持ち寄って炊き出しを始めたり、自然と助け合いが生まれたそうです。
「能登って、本当に人が温かいんです」と語る沙綾香さんの笑顔が印象的でした。昭治さんたちも、自分たちが育てたさつまいもを焼き芋にして配り、少しでもみんなの力になろうとしていたそうです。

震災後、子どものことも考え、沙綾香さんとお子さんは一時的に札幌へ避難。昭治さんは能登に残り、復旧作業に取り組みました。

沙綾香さんが震災後に一度能登を離れたものの、再び戻ってこられたのは、「能登の空気の心地よさと、人のあたたかさを胸に刻んで生きていきたい」という想いからでした。家屋が半壊し、仮設住宅での生活を余儀なくされた日々の中でも、夜空に輝く星の美しさや、近所の方々が差し入れてくれた手作りのお味噌汁やおにぎりのぬくもりに支えられ、都会では得られない“心の豊かさ”を実感されたといいます。

ご夫妻にとって能登は、ただの住まいではなく、「本当のふるさと」と呼べる場所です。棚田に映る夕焼け、潮の香る風、泥んこになって遊ぶ子どもたちの姿。そんな日常の風景が、家族の成長や人と人との絆を育んでくれました。

「この土地に帰ってきてよかった」と心から感じられる能登の魅力を、もっとたくさんの人に伝えていきたい。そう語るご夫妻は、土と風と人が紡ぐ能登の物語を、これからも丁寧に発信し続けていきます。

お菓子作りへの想い

「notogocochi」が生まれたのは、2020年11月のある帰り道、道中でいただいた手作りクッキーの甘さに感動したことがきっかけでした。当時1歳1か月だった息子さんは卵アレルギーを抱えており、市販品には手が出せない日々。農家である下野農園だからこそ、自分たちの畑で育てたさつまいもを使い、安心して食べられる野菜入りのやさしいお菓子を自分たちの手で作ってみよう。そんな想いがふくらんでいきました。

帰路で見た日本海に沈む夕日を胸に、自宅敷地内に加工場を整備、野菜の加工品づくりに着手すると、パティシエの坂出良子さんがレシピ確立に協力し、2023年春にはデザイナー原嶋夏美さんとパッケージのコンセプトづくりを開始。まさに手作りの情熱が結晶したレシピが完成しつつあった矢先、能登半島地震に見舞われます。

震度7の揺れにも耐えきったオープンを前に、「諦めちゃダメだ」と決意を新たにしたご夫婦。家族やスタッフ、遠く離れた札幌の奥さま、デザイナーさん、パティシエさん。多くの“バトン”がつながり、紆余曲折を経て再開したお菓子づくりは、畑のさつまいもを焼き芋にして生まれる自然な甘みと、能登の赤土が育む豊かな風味をそのままに伝えます。

他社製品に自社のロゴを載せたOEM品ではなく、当社独自で一から企画開発・製造した、手作りの商品です。「畑からお皿まで」を自らの手でつなぐ下野農園の「notogocochi」は、食べる人の笑顔を想い、今日もひとつひとつ愛情をこめて焼き上げられています。

これからのこと

「自分たちが惚れ込んだ能登を、もっと多くの人に知ってもらいたい」
美しい自然や美味しい食べ物、そして何より人のあたたかさに魅了され、移住を決意したお二人だからこそ伝えられる能登の魅力があります。

震災を経験しながらも、改めてこの地で生きることの意味を見つめ直したご夫妻は、訪れる人にとっても「また帰ってきたくなる場所」にしたいと願いながら、日々の生活や農業と向き合っています。

今後は、地域のために自分たちができることを少しずつ形にしていきたいと考えており、とくに女性が子育てや暮らしと両立しながら安心して働ける雇用の場づくりにも取り組んでいく予定です。
「時間や場所に縛られず、それぞれの力を発揮できる働き方をこの能登で実現したい」
そんな想いのもと、農業やお菓子づくりを軸に、地域で支え合いながら働ける環境づくりを目指しています。

メルマガ
登録