ローカルプロジェクト
仕事とハンドの二足のわらじでプロリーグ参入へ 富山県氷見市発の男子ハンドボールチーム「富山ドリームス」
「ハンドボールの街」。
そのように称されているのは、富山県西部、能登半島の付け根に位置する人口約4万5千人の小さな港町「富山県氷見市」です。全国有数のハンドボール強豪地域として知られており、これまで数多くのトップ選手を輩出してきました。
2022年4月、氷見市を拠点とする男子ハンドボールチーム「一般社団法人富山ドリームス」が立ち上がりました。富山ドリームスは、競技と仕事を両立する「デュアルキャリア」を掲げたチームづくりを進めていて、全国各地から集められた選手たちは、県内企業で働きながら、2024年に開幕するプロリーグ参入に向けて練習に打ち込んでいます。
今回は、富山ドリームスの発起人であり専務理事の徳前さんと選手の森永さんに、アスリートの選択肢を広げる「人づくり」や、ハンドボールを通じた地域活性化の取り組みについて伺いました。
「氷見=ハンドボール」というブランド価値を活かす
なぜ氷見市はハンドボールが盛んな地域なのでしょうか?
1958年の富山国体で、はじめて地元県立高校である氷見高校が日本一となりました。そこをきっかけとして、市一丸となってハンドボールに力を入れるようになったと思います。結果、氷見高校男子ハンドボール部はインターハイ通算勝利数全国1位を誇り、地元の小学校・中学校のチームも数多くの全国大会で勝利を収めています。2005年からは、「春の全国中学生ハンドボール選手権大会」も氷見市で開催されていますね。市民に「氷見ってどんな地域?」と聞くと、大抵の人は「氷見寒ブリ(名産品)とハンドボール」と答えるのではないでしょうか。
富山ドリームスはどういった経緯で立ち上がったのですか?
いくつか理由はありますが、強く感じていたのは「氷見をなんとかしていきたい」という想いです。氷見市も他の地方と同様に人口減少といった多くの地域課題に直面しています。地域活性化を図っていくためには、大きなエネルギーを生み出す新しいシンボル的存在が必要であると感じていました。また、トップリーグに加盟するチームがないため、全国優勝を果たすほどの才能あふれる地元選手たちが、どんどん外に出ていってしまう。「ハンドボールの街」というブランドを活かし、地域と一緒にハンドボールチームを作っていく。そうすることで地域活性化に貢献しながら、選手たちの輝く場所をつくりだすことができると考え、法人化し、チームを立ち上げました。
アスリートの第二の人生を見据えた「人づくり」。人手不足の解消にも
今回掲げている「デュアルキャリア」とは、どのような取り組みですか?
簡単にいうと、働きながらプロ選手として活動する「兼業プロ契約」のことを指します。選手たちは、日中は県内のIT企業や銀行、自動車ディーラーなどで働き、夜になると練習やチームの活動に取り組んでいます。働きながらアスリートとして活動することで、引退した後もそこで培ったスキルを活かし、ビジネスの世界で活躍していくことができます。そうした「人づくり」が、これからのアスリートのセカンドキャリアには必要となってくると考えています。企業側も人手不足で悩んでいるため、そういったニーズともうまく合致しましたね。
森永選手はIT会社「株式会社Asian Bridge」に勤務されているということですが、仕事内容は?
現在は、① 自社WEBメディアの執筆、② インターンシップマッチングサービスの運営、③ 自治体と連携したイベントの企画・運営といった業務を担当しています。場合によっては、実際に地元企業に足を運んで、企業課題についてヒアリングを行ったりもしています。社会人としては1年目ですし、入社してからまだ3ヶ月しか経過していないため分からない部分も多いですが、同時に自分の成長もすごく実感しています。ここから半年〜1年の間でどこまで社会人として成長できるのかということも自分に課しているチャレンジのひとつですね。
実際に仕事とハンドボールを両立してみて、いかがですか?
いや〜正直に言うと結構大変です!ハンドボールの練習は、1日大体90分程度ですが、そこから戦術を整理したり、活動を伝えるためにSNSで発信を行ったり…。アスリートとしての活動と慣れていない仕事の両立は、まだまだ四苦八苦している状況です。でも、充実しているのは間違いないです!仕事もハンドボールも、本当にやりがいがありますね。
先日は、チームとしてはじめて対外戦を行ったそうですが、手応えはいかがでしたか?
日本リーグ所属の北陸電力ブルーサンダー(福井)と試合を行ったのですが、フィジカル面やチームとしての成熟度といった面でもまだまだ全然追いつけておらず、18-20で敗れました。チームとしての課題もみえた試合でしたが、なによりも嬉しかったのが、スポンサーや雇用企業の方々が計100名ほど見に来てくれたということです。日頃職場でお世話になっている人たちに、自分たちのメインの活動であるハンドボールを見せることができて、「あぁこの光景からこのチームは始まっていくのか」ということを強く感じました。それが一番良かったですね。
ハンドボールでまちを元気に!スポーツだけではない、地域密着型の取り組み
まちの活性化のために積極的に地域活動に参加されているとのことですが、どのような取り組みを?
氷見市は他の地域に比べてハンドボール競技人口が多いといえど、まだまだ試合をみたことがない方も多くいらっしゃいます。富山ドリームスは、「ハンドボールを通じて幸せを届ける」を理念に活動しているため、まずは市民の方に応援してもらえるチームになりたいな、と。先日は子ども向けプログラミング教室を開催しました。終わった後に一緒に作業していた子どものお母さんから「息子がとても喜んでいた」とお礼の手紙までいただきました。その方が家業でカフェをやっているということで遊びにいったところ、「夏の祭りで太鼓台を引く担い手が不足しているから、今度参加してみないか?」と誘っていただき、夏の祇園祭では助っ人として選手2名が太鼓台を引いて市内を練り歩きました。ゆくゆくは地域の困りごとが富山ドリームスに集まるようになったら面白いですよね。いまは氷見を中心に活動していますが、今後はその輪を富山県全域に広げていきたいです。
「スポーツは人と人をつなげる」地域と連携して挑むプロリーグへの道
森永選手の今後の活動目標は?
まずは選手として、一流のハンドボールプレイヤーを目指していくことが第一だと思っています。富山ドリームスや、森永という選手を応援してもらえるようになるためには、そこは絶対に譲れません。その上で、今携わっている仕事も責任をもって任せてもらえるようになりたいです。
専務理事として、今後富山ドリームスをどのようなチームにしていきたいですか?
今後プロリーグに参入していくためには、3,500万円のリーグ入会金が必要といわれています。とてつもなく大きな金額にも思えますが、3,500人の方に1人1万円を支援してもらえたら達成できます。かつて野球チームの広島東洋カープが、市民からの「樽募金」に支えられてトップチームまで上り詰めていったように、富山ドリームスも市民の方と一緒にチームを作っていきたい。スポーツは人と人をつなげる力があるから、富山ドリームスというチームを通じて、いろんな人との繋がりや、新たなコミュニティが生まれていけばいいですね。そんなチームになれたら、真の意味で地域に必要としてもらえるチームになると思います。
インタビューの合間に「これだけハンドボールを受け入れてくれる地域は他にはない。そんな場所でハンドボールができて幸せです」と語ってくれた森永選手。デュアルキャリアの経歴を活かし、学生アスリートを対象としたキャリアセミナーに登壇されるなど、活動の幅を広げています。ハンドボールというスポーツを通じて、地域を、アスリートの新しい生き方を模索していこうと取り組む姿からは、熱い真剣な想いが伝わってきました。
また、スポーツのみならず、障がい者アートとコラボレーションを行うなど、分野や地域をまたいだ連携が動き始めているそうです。近い将来、氷見市民のみならず多くの富山県民から応援されるチームになっていくであろうという確信が芽生えた取材になりました。
ローカルプロジェクトでは、今後も自治体の新たな取組、街の活性化に取り組む事業者や団体の動きに注目していきます。
一般社団法人富山ドリームス(いっぱんしゃだんほうじんとやまどりーむす)
2024年に開幕するプロリーグ参入に向けて立ち上がった、富山県氷見市を拠点とする男子ハンドボールチーム。働きながらプロ選手として活動する「デュアルキャリア」を掲げたチームづくりを行っているほか、富山県に根付いたハンドボールチームとして地域活性化に向けた取り組みを行っている。
Webサイトへ