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漆人の角 有伊氏が生み出す、合鹿椀と輪島塗

一期一会の作品

石川県輪島市に工房を構える漆人 角 有伊氏。父である、故・角 偉三郎氏が石川県輪島市の寺院で合鹿椀(ごうろくわん)に出会い、長年作られていなかった合鹿椀を復元させました。やがて、単なる復元に留まらず、従来の輪島塗とは異なる技法で作品をつくる父・偉三郎氏の技法を継承しつつ、有伊氏自身も偉三郎氏の作風とは異なる独自の創意工夫を重ね、精力的に制作活動を続けています。

代表作は合鹿椀ですが、輪島塗の商品は種類が多く、お椀だけでも様々な大きさや異なった形で約20種類の作品が存在します。

輪島市の工房にて

輪島市にある角 漆工房は、所狭しと箱に入った作品や修理依頼の商品が置かれていました。作業場では複数の職人が作業をしており、木地(きじ)の凹凸をなくすための「研ぎ」作業の音が鳴り響いていました。各々の作業台は、漆を広げて練る工程でできた漆独特の変色の跡があり、黒く光り輝いていたのが印象的でした。黒漆は時間と共に白く変色してしまうため、時間との勝負。有伊氏は作業台の一番前に座り、一つ一つお椀を手に取り、真剣な眼差しで作業を行っていました。

※木地・・・漆などの塗料を塗る前の白木のままの木材、器物。

合鹿椀と角 偉三郎氏

合鹿椀は、かつて輪島市の東隣に位置する柳田村の合鹿の里で生み出されました。一般的な輪島塗のお椀に比べて、切り立ったような高台、表面には漆を通して木目のありようが浮かびあがり、素朴でたくましく、どっしりとした存在感があるお椀です。角 偉三郎氏によって復元され、漆塗りの原初のイメージの表象となりました。

角作品は、大胆で律動的な朱塗りや黒漆塗り、溜塗りなどが施され、漆の有機的特性を強くうかがわせつつ刷毛塗りの触感を顕わにした、新たな創造の漆器です。

角 偉三郎氏は、敢えて漆塗りのむらや漆を滴らせ縮みを見せたりする輪島塗の新たな塗りの手法を確立させました。そして、近づくだけでかぶれるという漆や金粉を朱合漆に練り込んだ練金を手指ですくい打ち付け、その時の感性で即興的な点や線を表す作品などを多く制作し、「表現」から「日常的に使う道具」として作風に変えていったのです。

偉三郎氏の独特な表現手法は合鹿椀にとどまることなく、鉢や長手盆、ヘギ板盤など漆塗りの常識を打ち破り、次第にメディアに取り上げられるなど注目を集めるようになりました。

ユニークさだけでなく、漆の特質と漆塗りの加減を自らの表現のうちと確固としてとらえた真骨頂。不思議と手に馴染む椀や使い込むほどに漆が美しく魅力を増す作品は、全国から支持を集めるようになりました。

父・角 偉三郎と遺志を受け継ぐ、子・有伊

父・偉三郎氏が他界後、輪島市の̚角漆工房の代表となり、父の遺志を受け継ぎつつ独自の世界観で精力的に多くの作品を生み出しているのが、長男の有伊氏です。

偉三郎氏は、黒漆や金粉を朱合漆に練り込んだ練金を手指ですくい上げて文様を付けるなど塗りの特異な作品を多く製作していましたが、有伊氏は「敢えて作らない。漆で手が汚れるから。」と笑って答えます。

大胆な作風が特徴の父・偉三郎氏と美しい仕上がりにこだわる有伊氏。同じ作品ですが、仕上がりが自ずと異なる2人の作品は、どちらの角作品も、使い込んでいくと漆が木地に馴染んでいき、ますます美しくなります。

工程について

輪島塗は124もの工程があります。木地屋や下地屋など一つの作品に多くの職人が手を加え、長い歳月をかけて完成をさせています。

■木地づくり・・・漆器のベースとなる木地は、「木地師」と呼ばれる専門の職人たちによって作られます。用途に合わせた木の材料は異なり、色味や木目も様々です。

■木地がため・・・木地に漆や柿渋を浸み込ませ、このあとの工程で塗られていく漆と木地を一体化させるために、生漆を薄く塗ります。接着力の強い生漆を使用することによって、木地の腐敗を防ぎ、がたつきなど狂いを抑える第一段階を踏ませます。漆が酸素と結合し、白かった木地が黒くなります。

■木地磨き・・・各工程の後に必ず研ぎを行います。椀の表面が平滑になり、次の工程の漆が付やすくなります。 ・布着せ(ぬのきせ)・・・木地の割れやすい所やいたみやすい所に和紙を漆で貼り付け、補強する工程。ぶつけて漆面が欠けても木地までは達しないようにすること、また、水気のものが木地にしみこまないようにするためです。

■布着せ(ぬのきせ)・・・木地の割れやすい所やいたみやすい所に和紙を漆で貼り付け、補強する工程。ぶつけて漆面が欠けても木地までは達しないようにすること、また、水気のものが木地にしみこまないようにするためです。

■中塗り(なかぬり)・・「生きる塗料」といわれる漆は、天候や湿度によって固まり具合が左右されるため、塗師(ぬりし)は経験をもとに最適の粘り具合を調整してから、塗りの作業に入ります。

■上塗(うわぬり)・・上塗では、上質の精製漆を数回に分けて刷毛塗りします。ホコリを極端に嫌い、漆が垂れないように細心の注意を払いながら作業が行われます。一つ一つ性質の異なる様々な漆を使い分け、その時の季節や気候状況に合わせ、いつでも最適な塗膜が得られるよう、漆を調合しています。

漆は生きている

漆は、時間が経つと酸化で黒くなるため、時折混ぜたりして色を馴染ませながら色付けを行います。温度や湿度などにより漆の状態は毎回異なるため、「生きる塗料」と言われています。そのため、同じ黒塗りでも一つ一つ色の出方が異なっているのです。

漆器の特徴は、丈夫で塗り直しがきくことです。丈夫だからこそ長年使い続けることができ、手に馴染み、使えば使うほどに漆の美しい風合いが生まれ、人の心を豊かにしてくれます。

全国で開催される展示会

角氏の展示会には、合鹿椀などのお椀をはじめ、菜盆や角皿、ジャズ椀などが出展されます。木目や漆の色など、同じようで同じではない。それぞれも木目や漆の状態に合わせて作品を生み出すため、その時にしか出会えない唯一無二の作品たちが並びます。

展示会で目を奪われ、手に馴染む触感が忘れられずに、後日ご注文される方もいらっしゃいます。

角作品は在庫が必ずしもあるとは限りません。作品によっては、2,3年お待ちいただく場合もございます。その時にしか出会えない逸品をぜひご覧ください。

ひとつの作品に想いを込める職人たち

合鹿椀をはじめ、輪島塗の作品には、木地屋、下地屋など様々な職人が関わり、ひとつの作品が出来上がります。木地屋から、「こんな木地はどうだ。」と提案があったり、有伊氏から「こんな木地を作って欲しい」などやり取りをしたり、それぞれの職人の想いが合わさり作品が出来上がっていきます。

「時には、思い通りの木地が届かないこともある。」と有伊氏は、苦笑いをしました。それでも、一つ一つ異なっている木地の模様、色などを活かして、漆を薄く薄く丁寧に何度も塗り重ねていきます。

漆を塗る工程は、塗って乾かして塗っての作業を最低でも15回は繰り返すとのこと。漆の食いつきをよくするために、薄く塗っていき、ひとつひとつ異なる木目をきれいに見せるために、それぞれの木地の特徴を生かした作品にします。その為、仕上がりの色も異なります。丁寧に塗り重ねられたお椀は美しく、艶出しされた作品は漆が光輝きます。

輪島塗のお椀が完成するのに1か月半以上かかるのも納得させられました。

有伊氏は特に、丁寧な仕上がりをこだわっており、同じ輪島塗でも、大胆な技法で制作していた父・偉三郎氏とはまた違う魅力が感じられます。

一生ものの作品を手にしてほしい

手間暇かけて完成された輪島塗の作品は、高級料亭で使用されたり、一生ものの贈り物として購入される方が多いようです。角作品のお椀やお皿を使って料理を盛れば、格段に見栄えが良くなると言われています。

また購入後、大事に使用していたお椀が欠けてしまった。などの場合、修理を請け負っていただけます。お椀の木目の模様、天候などによっては、修理前後で多少漆の色味などが異なる場合もありますが、欠けていたお椀が元に戻って手元に届いた瞬間はなんとも言えない感動があります。大切に扱っていた方にとってはとても有難く、感謝されることも多いようです。

あなたも、大事な人への贈り物や自分へのご褒美に。角 有伊氏のお椀やお皿で、格別な食卓を彩ってみてはいかがでしょうか。

代表的な作品紹介

一つ一つ手作業で作品を制作しております。その為、文字や模様の出方がそれぞれ異なりますので、予めご了承ください。(写真はほんの一例です。参考としてご覧ください。)

利休皿

木地に縁のみ布着せをして木目の面白さが見える塗り方をしています。文字は金箔で描いた上にさらに漆を塗ってあります。お料理の取り皿や菓子皿等多用途にお使いいただけます。

角盆 雨垂れ

ぽつぽつと、大粒の雨垂れのような点がしるされた盆。手指に直接漆をつけ、盆の文様とし、有伊氏の感性と自然の力が調和した作品です。模様は、いつもさりげなく生まれるため、同じ模様は存在しません。

ジャズ椀

漆黒のお椀や器に、指先から朱漆の液をはじき出し、鮮やかに彩って完成されます。その朱の模様は、ジャズのアドリブのように自在で異なり、一つとして同じものが生まれません。出来上がった作品は、まさに「世界に一つだけの逸品」。そのときしか出会うことができない運命の瞬間といえます。

溜まり塗椀

漆を椀の縁から流し、垂れていくままに乾かしていく技法。自然の漆の流れによって出来上がるため、完成の模様は予測不可能。自然に漆が乾いて、縮み、漆を再度垂れ流し乾かす。乾くのを待って作業を繰り返すため、時間がかかります。

器面の成りのままに模様が生み出されるため、同じものは作れない。思うような模様にならなければ、漆を取って作り直すこともあるそうです。出来上がりに数年かかるともいわれ、必ずしもお目にかかれるとは限らない、貴重な作品と言えます。

練金文椀

漆は被れる性質を持っていますが、職人たちは長年の歳月を経て抗体を持ち、素手で作業を行っています。黒漆に金粉を練り込んだ練金を直接素手でとり、お椀に模様をつけていく。その時の感性で生み出される文様は、まさに究極の作品です。


輪島漆人 角 有伊(kado yui)

父に角 偉三郎を持つ、石川県輪島市出身の日本の漆芸家。偉三郎が他界後に角漆工房の代表として偉三郎の遺志を受け継ぎながらも、独自の漆の世界を精力的に作り上げています。 代表作品は「合鹿椀」。
角工房の作品は、使うたびに漆の魅力を増すと、全国から圧倒的な支持を集めています。

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(取材/株式会社AsianBridge、撮影/株式会社つめあと)

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