SMILE PEOPLE
美川のふぐの子「任孫商店」
江戸時代より現代へ、6代続く奇跡の食「ふぐの子」
北陸を拠点に全国に笑顔を届けている生産者や職人の方の想いやこだわりに迫る「SMILE PEOPLE」。
石川県白山市にて、江戸後期から続く製法で、加賀伝統の食文化である「ふぐの子」を生産する工場があると聞き、取材に伺いました。
ふぐの子とは、ふぐの卵巣の糠漬のことで、本来猛毒であるふぐの内臓を長く漬けることで無毒化し、おいしく食べられるようにしています。
お話を聞いたのは任孫 (とうまご)商店の6代目の任田 (とうだ)さん。任田さんには、確立するまで何人もの命が犠牲になってきたであろう製法技術を長きに渡って継承し、現代の人でも食べやすいものを提供したいという想いについて伺いました。
きっかけは父。あふれでた「やってみるか」という想い。
任田さんが継がれて約10年。家業を継ぐことは、昔から考えていらっしゃったのでしょうか?
正直に言うと、全然考えていませんでした。子どもの頃から「継ぐ」ことのプレッシャーを感じていましたが、当時は別の仕事もやってみたい気持ちが強かったです。
東京でIT系の仕事をしていましたが、しばらくして石川県に戻ってきました。地元でバイトをして過ごしているうちに、父が体を悪くして倒れてしまったんです。
当時はまだ後を継ぐ覚悟はありませんでしたが、父が倒れたことをきっかけに「やってやるか」という想いで、仕事を始めました。
実際にやってみて、いかがでしたか?
小さい頃からそばで仕事の様子は見ていたので、できないことはないだろうと思っていました。ですが、実際にやってみると、どうしても難しいところがありました。自分の性格上、営業活動などは積極的にできていませんが、お客さんの声に応えながら頑張っていこうと思います。
日常にあるぬか漬けの文化
ふぐの子のぬか漬けは、どういった工程で作られるのですか?
まずは、そのままのふぐを仕入れて捌き、お腹から内臓や白子、真子などを全て取り出します。取り出した真子を飽和状態になるまで1年ぐらい塩漬けします。今度は、木樽の中で、糠と麹で漬けます。それからは、いしる(いわしの魚醤)を毎日継ぎ足して、大体2年ぐらいで無毒化されて、おいしくなって出荷できるようになります。
食べられるようになるまで3年かかるんですね。
そうですね。真子は本来、ちょっとでも食べたら人が死んでしまうような猛毒です。いしるに漬けることでなぜ無毒化するのか、まだ原理はわかっていないですが、食べられるようにするにはどうしても時間がかかってしまいます。なので、今でも変わらず昔からの方法をとっています。
先人の知恵による技術は、すごいですね。
よくこんなものを食べようと思いましたよね、本当に。今まで、作る段階で何人も死んでいるとは思うんです。それでもどうしても食べようという気持ちを、過去の人から受け継いで、今でもおいしく食べられるようにしていかなきゃいけないと思っています。
食材は、どこのもの使っているのでしょうか?
ふぐ以外は、ほとんどの糠と麹は、石川県の白山市のものを使っています。
ふぐの子を食べたことない方には、どのようにお勧めしたらいいですか?
1度食べてもらえれば、おいしいと思ってもらえる商品なので、まずは食べていただきたいです。ご飯の上にのっけて食べたり、ちょっと薄くスライスして日本酒やビールのお供につまんだりしてもらうのがいいと思います。塩分がすごく強いので、ちょっとずつ食べていただきたいです。
身についている糠もおいしいので、水で洗わずに手でとるだけで充分です。
日常的に食べられているもので、昔から、田んぼへ農作業に行くのに持っていくおにぎりの具として入れていく人も多かったです。塩分も取れるので、汗をかく仕事の方々には愛されていますよ。
ほかには、明太子をイメージして、パスタやピザの上に乗せるなどして、アレンジしてみたら食べやすいんじゃないかと思います。
常連のお客さんからの評判はどうですか?
糠漬けは、地域のものを食べるという風習が濃くて、常連の方は、石川県の中でもこのあたり(美川)に住んでいる方だけだったんです。
常連の方は、よく漬かっているものがお好きで、長く漬かったものを出してくれ、と昔から言われることがあります。
あと、できるだけ食べやすくしてくれと言われますね。塩分が薄いものがほしいと言われたことがありますが、実際に塩分を抜いたものを食べてみてもあまりおいしくなかったです。
塩分は多いですが、発酵食品は健康にいいということなので、ちょっと血圧を気にされる方でも別腹というかたちで食べてくださる方が多いですね。
伝統を絶やさないためにできること
蔵を拝見して、今も守られていることに感動しました。
蔵自体に菌がついているので、新しい蔵にするとどうしても味が落ちると昔からいわれています。別のお店と味が全然違っているのは、建物に住んでいる菌のおかげだといわれていて、江戸時代からあるような建物ばかりです。味を守るためにも、新しくできないという面がありますね。
木樽は、4、50年使っていて、古いものになると100年以上経っているものもあります。
受け継いでいる伝統とは、なんだと思いますか?
やはり伝統には、重みを感じます。飢饉などがあって食べ物が少ない時代に、食べられないものでもなんとかして食べられるようにしようという強い想いを、後世に残していけたらなと思っています。
この世界に入って10年。200年以上続く製法を守り作り続けていて、今後どのようにしていこうと考えていらっしゃいますか?
10年やってきて、味を守ることは難しいと感じています。今は、魚の値段がものすごく上がってきていますが、ふぐの子は美川や金沢などで日常的に食べられているものなので、なるべく値段を上げないようにしたいと思っています。
今後は、お土産にするなどブランド価値を上げていくことが、必要になってくるんじゃないかと思っています。
また、袋から出して、一本そのままの状態だと食べにくいと思っています。
少し手を加えて、スライスしたものや瓶詰めのものなどお客さんが食べやすい商品を作ろうと考えていて、今、工場を改装しているところです。
金沢屋を見られた方に伝えたいことはどういったところですか?
ふぐの子は猛毒なので、今はしっかり検査して食べられるようにしていますが、全国的にみると、石川県の一部でしか作っていない食べ物なので、どこに行っても買えるものではないです。
実際に、石川県に来て、観光しながら食べてもらうことはもちろんですが、金沢屋さんを通して全国どこでも食べて頂けるので、是非とも一度食べて、お試しいただきたいと思います。
今回の取材では、江戸時代に建てられた蔵を見せていただき、脈々と受け継がれてきた伝統の重みに圧倒されました。伝統とおいしさと食の安全を守りながら、地元だけではなく全国の方に届けるために尽力している6代目の活躍が、今後楽しみになりました。
任孫商店
江戸後期から続く製法で、加賀伝統の食文化である「ふぐの子」を生産する工場。本来猛毒であるふぐの内臓を3年間漬けることで無毒化し、おいしく食べられるようにしている。
NOTOteMAで「ふぐの子と詰め合わせ」を全国に販売中。
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(取材/株式会社Asian Bridge、撮影/トナミユキコ)