SMILE PEOPLE
白千鳥 神保
加賀百万石の商店街から続くこだわりとオリジナリティ
北陸を拠点に全国に笑顔を届けている生産者や職人の方の想いやこだわりに迫る「SMILE PEOPLE」。
今回ご紹介するのは石川県かほく市高松でお菓子作りをしている「白千鳥 神保」。高松は歴史的に加賀・能登の国境の村で、加賀と能登の人々の交易や往来で賑わい、大きな商店街だった場所です。今は人も店も減っていますが、「白千鳥 神保」からは相変わらず多くの人に愛されている和菓子が作られています。特に「能登大納言どら焼き」というお菓子は、新しくオープンした内灘の道の駅を含め、石川県のアンテナショップなど様々な場所で販売されています。
お話を伺ったのは、「白千鳥 神保」の3代目の神保賢史さん。神保さんは、20年以上和菓子を作りながらオリジナリティのある商品を作りつつ、最高の「小豆」についても研究しています。
今回神保さんには、地元への想いとこだわり、そして神保さんにとっての高松のオリジナリティについて語っていただきました。
加賀百万石の商店街から始まった味
普段どのようなことをされているか、簡単に教えていただけますか?
基本的に毎日朝4時から仕事が始まります。朝からどら焼きを含め、色んなお菓子を作ります。どらやきの生地は毎日、あんこは二日に一回炊いています。
大体決められたルーティンで和菓子を作っていますが、季節や時期による違いはあります。例えばどら焼きの生地を焼くことについては、気温によって焼ける量が変わります。夏は冬の2倍くらいの速さで焼くことができます。そのため、夏と冬でお菓子を作る順番が変わりますね。
既に20年以上この仕事をされていますが、最初から継ぎたいと思いましたか?
実は私は、最初継ぐつもりはなかったです。継ぐはずがないとまで言っていました。大学でもお菓子と関係ない商学を学びました。しかし、その大学にはもう一人和菓子屋さんの子がいて、その人との出会いで考えが変わりました。その子を見て私もやってみたいと思い、家業を継ぐことになりました。今は次々とレベルアップしていくことを楽しみながら、毎日和菓子を作っています。
神保さんが継がれてから、何が変わりましたか?
この店は、お餅を作ることから始まりました。そして和菓子に限らず、洋菓子なども作っていました。しかし、私は「和菓子」に絞って、より和菓子らしさを追求していきたいと思いました。商品の数も先代の方が多かったですが、ある商品を極めていきたいという気持ちが強くありました。とにかく和菓子というものを知ることに時間をかけ、経験を積み重ねることで、最高の和菓子を作りたいと思っています。
究極のあんこを作るためのこだわり
こだわりというものはありますか?
まず材料へのこだわりは当たり前だと思っています。お米や五郎島金時など、石川産のものを優先的に使うようにしています。絶対石川産じゃないと駄目という考え方ではなくて、材料として本当に石川産がいいから。その中でもどら焼きに入っている「能登大納言」がうちのこだわりです。
私自身がつぶあんが好きで、どうすればつぶあんをもっと美味しくできるか、最高のあんこにすることができるか常に勉強しています。その中でも必要不可欠なものが「能登大納言」です。
「能登大納言」へのこだわりはどこから始まりましたか?
実はかほく市は、金沢に比べるとブランド価値はどうしても落ちてしまうものです。新幹線が開通して、金沢は賑やかになりましたが、ここはただ通過される地域となってしまいました。私はなんとかしないといけないと思いました。どこにも負けないくらいのものが必要でした。以前使っていた材料に比べると倍以上の値段ですが、金沢の人に、そして全国の人に食べてもらうためには、いいものを使わないといけないと思いました。素材を活かす和菓子の工程には自信があり、この素材を活かして、究極のどら焼きを作りました。
神保さんのどら焼きについて、簡単にご紹介ください。
美味しくて体にもいいもの、その一番が小豆だと思います。私はその小豆をいかに皆様に美味しく食べていただけるか研究しています。その結論が今のどら焼きで、あんこを一番美味しく食べてもらえる形じゃないかと思ってます。
まず小豆が大きいから、他のどら焼きに比べて明らかに分厚くなっています。普通の3倍の大きさの小豆を使っていて、豊かな気分になれる食感が特徴です。食べたときに思ったよりも大きい粒の小豆が出てくることは、絶対楽しいこと!お客さんが楽しいと思ってくれるのが嬉しいです。
逆に神保さんがこの仕事をされてて楽しいと思った時や、やりがいを感じたエピソードはありますか?
お菓子作りで次々と何かを達成することが、私がレベルアップしていくゲームみたいで、純粋にそれが楽しいです。
最初は金沢、もしくは県外からわざわざ買いに来てくれるお客様はいませんでした。金沢で商品を出した時も、状況は変わりませんでした。ただし、お店の看板商品である「あやめもち」から新しいお客様がどんどん増えていって、開発した商品も美味しいと言われるようになりました。そして色んな職人さんから紹介されるようになり、レベルアップしていると実感するほどになりました。その実感がとても面白いことですね。
大納言というのは、普通の小豆より色も鮮明で、味も香りも違うものです。手作業で選別されるため、値段も高いです。
普通の小豆と比べて、どっちがいいという話ではありません。しかし、ただ大きくて高いだけ、皮が残るなどと言われることもあります。そんな大納言を美味しく食べてもらって、粒の大きく、皮まで柔らかい贅沢な食感を感じてもらい、いい意味で裏切ること。見た目は同じでも食べてみたら違う!と。私は最近どこに行ってもどら焼きを配っています。まずは食べてみてくださいと。そこで驚きを感じさせて、どら焼きがまた浸透していくことで、自分もレベルアップしていく気分になります。
日々勉強して成長したいと強く思っています!
金沢と能登の良さが混ざり合う素敵な場所だからこそ。
パッケージのデザインからも、「らしさ」というものが出ていますね。
パッケージについても、郷土の芸術家さんたちのご協力で、石川らしさを出しています。休みの時間は海で休むくらいここの海が好きというのもあって、ここ高松の海、雲、空などからインスピレーションを受けて、それを反映したパッケージングにしています。
今後のビジョンや、やりたいことはありますか?
高松が位置する能登地区内の人は年々減っています。その中で、事業を大きくしていくことよりは、着実にいいものに進化させることが大事だと思います。食べてくれるお客様がいる限り、お菓子を作ることも続けられるから。
昔は金沢の和菓子屋を超えようとしました。しかし、今は高松でいいと思います。「波の音」など、特徴的な商品も出していますが、オリジナリティと言っても、0からというものはないです。ご縁と経験を活かしながら、色んなものを食べてみて、いいものを取り入れること、そしてそこから理想に近いものを作っていくことで、ここだけのオリジナリティが出来上がります。
そういう意味でここ高松は、能登と加賀地区の間で、どちらにもなれる場所です。そうなればむしろ、それぞれのいいものを取り入れることができます。
金沢と能登のいいものを融合させ、美味しいお菓子について常に研究することで、加賀百万石の商店街だったこの街だからこそできることを続ける。それでこそ「らしさ」というものを作れるのではないかと思っています。
取材後、できたてのどら焼きを食べさせていただきました。神保さんがおっしゃった通りの「思ったよりも大きい粒の小豆」で、とても豊かな食感を味わうことができました。そして、何より地域への強い想いを感じました。
人口が減り、街が小さくなっても、過去の商店街から継がれ、さらに進化している味。その高松だけのこだわりがまたどこまで進化するか、今後の展開も楽しみです。
白千鳥 神保
80余年の長きにわたり営み続ける和菓子店「白千鳥 神保」。お菓子を通じて、やさしさとふるさとの文化を静かにお伝えすることを使命としている。
NOTOteMAで「能登大納言どら焼き」「あやめもち」「なみのおと」を全国に販売中。
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(取材/株式会社Asian Bridge、撮影/トナミユキコ)